EMERAUDE ARCHITECTURAL LABORATORY CO,LTD. 
 

楽しめる家づくり

小見山 健次 Kenji Komiyama


「階段」は夢の架け橋

もうしばらく前になりますが、わがアトリエのテラスに新しく階段がお目見えした。林と畑とが広がる周囲の風景を壊さないようにと低く平らな屋根にした結果、周りの木立からの落ち葉があっという間に堆積する。普段屋根が見えないから維持管理も怠るばかりだった。そこで屋根の管理を見据えて築15年ぶりに屋根に続く外階段を取り付けたという次第。さっそくその上にテーブルと椅子を置けるようにした。今まで見ることのなかった視点で周囲の風景が見えるようになって、いささかワイルドな寛ぎの場が階段のおかげで実現したのである。

屋根の上に夢を

どこかの町で古い家並みを歩いた時に物干し場として屋根の上にベランダをつけている住まいを見かけたが、イタリアのベニスなどは狭い土地に迷路のように路地が延びる密集した都市型の住まいだから、どの家も縦にひょろ長くて、きまって屋根の上にはデッキテラスがついている。屋上で星空を見ながら、あるいは陽の降り注ぐ下でビールパーティーなんていう光景が日常なのだ。わが日本のまちでも建て込んだ住宅団地の無表情な屋根の上を有効に使えばきっと建物がつくる風景も一変するに違いない。プレハブの味気ない建物でも屋根の天辺に木製デッキの載った景観があちこちに見られたらどんなに素敵な風景になることか。

夢の架け橋

神社やお寺を考えると階段にはさらに精神的な意味が込められていることもわかる。神や仏に近づくために設けられた参道としての石の階段は参拝者の心を洗い清め、上り詰めることで額に汗することが清らかな精神の高揚を誘う。いわば人の心を神の傍に導くための架け橋という訳だ。
足腰の弱った人にとっては障害でしかないように思えるが、病院ではむしろリハビリの道具としても役立っている。家庭でも健康維持に役立つ楽しく安全な階段を作ることだって工夫次第のはずだ。今更という観はあるが最近の介護保険法の改正に「筋力トレーニング」の項目が導入されたことはこうした意味合いでは頷ける話題だとも思う。弱者のためのバリアフリー、あるいはユニバーサルデザイン重視の指向が根づいてきてはいるが、豊かな社会に必要なことは、なにも障害となるべき不便さを全部取り除くことではなくて、それらを克服するための手段がいつでもその場で自由に選択出来る環境を実現することにあるはず。

いつだったかこの欄で老後の家づくりは寝室を中心にと、お医者さんが往診時の体験を基に書いておられた。究極は這ってでも行ける範囲に水廻りを配置すべきことや日当たりの良い位置に寝室を配置すべきことは確かに重要なことだ。ただ、動けなくなった時の自分と元気な時の自分、そのいずれもが大切にしたいその時々の現実であり願望であることも事実。間取りの優先順位は建てる時のそうした状況に左右されて決まるものだが、便利なだけでない、夢のある「楽しめる家づくり」を心がけることが心と身体の健康を維持するための大切な視点であることも忘れたくない。