EMERAUDE ARCHITECTURAL LABORATORY CO,LTD. 
 

ローコスト住宅をつくろう

小見山 健次 Kenji Komiyama


ここ10年くらいの間に住宅の値段は急激に低下しました。少なくとも消費者である一般の人たちがそう思ってしまうような値段の建築が増えたのです。坪単価が30万円以下で出来ると宣伝している住宅会社が何社もあります。建築設計に関わる者としてこの現象は無視できないのでここではそうしたことについて私見を述べたいと思います。
通常、これまでの私のアトリエで設計させていただいた住まいの価格は50万円から80万円程度が一般的でした。もちろん建築主は30代から60代くらいの普通の方々です。工務店や大工さんならきっと45万円程度で出来るというに違いないし、ここでいう住宅会社なら30万円くらいから出来ますよ、というに違いありません。果たして住宅の値段はそんなに格差の大きいものなのでしょうか。

住宅の値段を比較するには諸条件を整理しなければなりません。同じ条件でなければ比較など意味がないからです。その第一要件として自分たちの生活スタイルと敷地の条件とを十分に生かした建築計画になっているかどうかということ。最近増えた住まいのテレビ番組に出てくるような至れり尽くせりの快適プランと、あてがいぶちで四角四面の規格プランとでは同じ材料、同じ床面積であったとしても建築の質には雲泥の差があります。ただ、この比較は重要でありながら今ひとつ釈然としないものがあるのです。単純比較はとても難しい。というのも間取りや建築空間の質については住まい手の嗜好の部分だから客観的に優劣をつけてみても意味がないからなのです。

第二にどこまでの範囲を住宅の値段というかの比較。例えば照明器具とか水道管の接続だとか浄化槽の費用、そしてエアコンなど、どこまでを工事費用としての値段なのか。単純比較をするなら実はこの点で住宅価格に大きな誤解が生じています。私の言う坪単価は照明器具はもちろんエアコンやカーテンの類までを盛り込んだものだし、本来そうした表示でなければ意味がないはずです。テレビや冷蔵庫までとはいわないまでも一通りの「住まいの仕掛け」はどちらにしろ購入することになるのだし当然必要なものなのですから。ところが工務店や住宅会社のいう単価にはカーテンどころか浄化槽や基礎工事までが別途工事、オプション工事となっていることがよくあるのです。

第三に使われている材料や製品の種類と仕様の違いを比較することです。骨組みとなる構造材も床材も材種や仕様によって値段は様々。耐久性にも比例してピンとキリとの値段の差は計り知れません。この3つのポイントをきちんと整理できればおそらく住宅の値段の仕組みが大方理解出来るはずなのです。

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ローコスト住宅宣言

同じ内容で価格差などあるはずがない

結論づけるなら、おそらくどのような経緯で住まいをつくるにしろ、条件が同じであるならば総建設費としての金額には大差が出るはずがないということです。ただし規格型の鉄骨系やパネル工法など、いわば量産住宅と一品生産による注文住宅とではその基本的な仕様は異なるし、断熱の方法や気密性能など住まいの個性としての違いについてはよく理解しておく必要があります。いずれにしろ材料の品質が同じで、しかも施工精度が同じくらいに丁寧な上に極端に安い住宅や高い住宅などはそもそもありえません。

もうひとつこの不況下、最近は住宅の値段の違いにその工賃の差による違いがあるようにも見えます。工賃とは人件費のこと。住宅の部品にはそもそも金額がそれと解る定価の付いた商品など極端に少ない。言ってみれば定価のある材料費は5分の一、いや10分の一以下かもしれません。極端に言えばあとは全て人件費なのですからこれをどこまで下げて工事するかという問題があります。
しかしこの部分は資本主義社会の基本的な問題。人件費はどこまで下げられるのか、果たして基準以下の報酬で人は適正な仕事がどこまで出来るのか、安い賃金にはそれなりの技術しか持たない職人や下職しかつくはずがないことなど、想像すればおのずと答えは出てきそうな疑問点です。こうしたこと全てを考慮したうえでローコストな住まいを考える。これははっきり言って至難の業です。でも我々設計者にとっては最も価値ある腕の見せ所でもあるのです。

等身大の家づくりを

《健康的で住みやすく、安い費用で実現する「楽しい住まい」づくり》をめざす方々への建築家からのメッセージとして、私たちはあえてここにローコスト住宅宣言を掲げます。
間取りや空間づくりなどローコスト化に向けた建築計画の技法、建築材料の選び方、施工の方法、工法の選び方、施工業者の選定、工程の監理など、住まいづくりの全てにトータルに関与して考える家づくりが今求められています。言い換えれば地域環境に馴染んだ、健康的で親しみやすい家づくり。夢のある豊かな空間づくり。そしてさらには経済性を最大限考慮した等身大の家づくり、が今求められています。「ローコスト住宅宣言」は今こうした家づくりを目指す方々のためのテーマであり目標でもあるのです。

〈適切な建設価格〉であることを知るためには建築の仕様をきちんと理解出来ることが必要。ハウスメーカー等の展示場を見て回るだけでなく、既製品部材とオリジナル部材の価格差や性能の違い、工事内容に建築主としてどこまで関わることが出来る仕様となっているかなど、単に“商品を買う”という、一方的な契約になっていないかの判断こそが最も大切。家づくりは〈一生に一度の大事業〉であることを肝に銘じて !